「絶対に押さえておきたい節税⑧役員報酬」
今回は役員報酬のお話を。
役員報酬と言うのは、「会社の役員に対する給与」です。個人事業主の方には、そもそも自分に対する給与という概念がありませんので、今回の話は関係ありません。
役員報酬を経費とするための4つの制限
まず、役員報酬を経費とするためには、いくつかの条件をクリアしないといけません。
仮に経費にできなかった場合、法人税もかかり、もらった給与に所得税もかかるというダブルパンチになってしまいます。
なので、あなたが社長であるならば、以下の代表的な役員報酬の4つの制限については、理解しておいて損はないことでしょう。
1.支払方法に対する制限
中小企業の場合、役員報酬をいったん決めたら、①『毎月定額』か、②『毎月定額+事前に届出を出した賞与』にしなくてはいけません。
仮に今月は60万円、次は70万円、さらにその次は50万円…
のように月ごとに”デコボコ”が発生した場合、”でっぱり”である部分(70万-60万=10万円)は全部経費として認められなくなります。
2.変更に対する制限
役員報酬の月額の変更や賞与の届出は、決算後の決まった時期までに行わないと認められません。
(ものすごく業績が悪い場合の減額のみ、一定の手続きを踏むことで認めてもらう余地あり)
また、役員報酬の額を決定した議事録はきちんと作成・保管しておく必要があります。
3.妥当性に対する制限
税務調査などの際に役員報酬は、会社の業績や実態などと比べて「高すぎではないか」ということをチェックされます。
とはいえ、私の感覚では年収数千万円まで、であればあまり問題にならないため、年収数億円などの特殊な方や、あまり働いていないように見える方の取り扱いの際に気を付ければよいお話です。
4.家族に対する制限
一定の親族は実際に役員として登記されていなくても、実質的に同じだということで、たとえ「従業員」としてお金を支払っている場合でも、「役員」としての制限を受けることがあります。
役員報酬のメリットは「コントロール可能な経費」
ところで役員報酬には、なぜこんなに面倒なルールが設定されているのでしょうか?
それは、納税者側にとって有利で、コントロール可能な”節税”にもなりうるメリットを多く含んでいるからです。
役員報酬は、数少ない自分で『コントロールできる経費』です。たとえば交際費など、他の経費でもコントロールできるのは一緒ですが、支払ったらなくなってしまう一般的な経費と異なり、役員報酬の場合は、それが社長の手元に残ります。
これが大きい。
『コントロールできる経費』という意味は、利益を会社に残すか、給与にして自分の手元に残すのか、会社を黒字にするのか赤字がいいのか、会社や社長にとって有利だと考える方向性へ、自由に決めしまうことができます。
たとえば、会社の業績が悪いのに、
「俺は社長だからこのくらいはもらわないと格好がつかない」
ぐらいの感覚で適当に役員報酬を決めてしまうと、個人としての所得税を増やすことにもなります。
そのため、業績に応じて、目いっぱい役員報酬を減らして調整した場合と比べ、トータルでの税金の差額は軽く百万円を超えることもあるのです。
そのため税務署は「そんな好き勝手は許さんぞ」ということで、制限を加えることになりました。まぁ自然な流れですよね。
(適正な)役員報酬を決めるのは簡単ではない
役員報酬は使いようによって、法人と社長個人としての税金をトータルでとらえた場合、税金を最低限にする”最善のポイント”を、ピタリとととらえる可能性があります。
その強すぎるメリットのため、税法で細かい制限がかけられているのです。
役員報酬設定のタイミングというのは限られているため、実務上は、事前に次の事業年度における利益を推測し、その推測が正しいと仮定した場合の読みに沿って、役員報酬をいくらにするべきかを考えていきます。
前提条件が「未来の正確な推定」なわけですから、とうぜん100点を取ることは非常に難しくなりますが、黒字が予定より出過ぎた場合でも、微調整であれば、他の節税策との組み合わせて十分に対応が可能です。
ということで、役員報酬をいくらにするかを決める段階(期首)では、社長があらゆる要素を織り込んで、次の決算締めとなる1年後を予測する必要があります。
それには社員にはっぱをかけるための目標値でもなく、見栄を張るでもない、とにかく現実的な予測が必要です。節税のために必要というのもありますが、これを正確に読み切ろうとすることは、社長業をやる上で、経営者としてのとても良い勉強になることでしょう。